「CDP:経営者・幹部の経営戦略セミナー」の講師、菅野寛氏。 早稲田大学大学院経営管理研究科(早稲田ビジネススクール)で教鞭を取るかたわら、企業で社外取締役もしています。
過去の役員と今の役員では、役割が異なってきているという現実や、ゼロからやり方を考え直す必要がある時代のなかで本日は、企業を存続するために、役員として必要な考え方を伺いました。

役員に戦略が重要な理由とは?

(JMA) さっそくですが、すでに実績も実力もお持ちであると推察される多くの役員の方が、改めてJMAに戦略を学びにお見えになっているのは、どのような背景があるのでしょうか。
(菅野) 私は、役員にとって何より戦略が重要だと考えています。
“過去の延長線上”や“引かれたレールの上を走る”という考え方をする人もまだいるようですが、今までより2割速く走るとか、2割効率を上げるとかいう延長線上の頑張りで事業を維持できる時代はとっくに終わったのではないでしょうか。
ゼロからやり方を考え直す必要がある時代が来ています。
好むと好まざるにかかわらず、既に現実になっていることなのです。
戦略と実行がどちらも重要な点に変わりありませんが、戦略の重要性がますます高まっていると言えます。
要するに、何をすべきか、そしてどうやるべきかが肝心なのです。
安定優良企業と考えられていたところが後発企業の新しい戦略に打ち負かされるケースが、10年前や20年前に比べて圧倒的に増えてきました。
例を挙げるとタクシー会社がウーバーに、旅館やホテルがエアビーアンドビーにやられてしまうのが典型です。
これからの時代はどんな脅威がやってくるかもしれませんから、決して安泰などという言葉は使えません。
以前は大きなチャンスが到来しても到底できなかったことができるようになっているのが、今の時代なのです。裏を返せば、チャンスがあるとも言えるのです。
だから、今の役員は、“どんな可能性があるのか”しっかりと考えたうえで、“実行”して“成果”を出さなければなりません。
20年前の役員と役割が全然、違ってきているわけです。
そういう意味で戦略がものすごく重要になっているのです。

役員が独自性を発揮すべき点とは?

(JMA) 現代の経営環境はいろいろなチャンスがあると同時に、ピンチになることもあります。
戦略を考えるに当たり、役員が独自性を発揮しなければいけない点はどこにあるのでしょうか。
(菅野) とにかく“自分の頭でゼロから”考えないといけないでしょう。
過去や先輩の例を軽んじていいわけではありませんが、それをそのままやっていけばいいことにはならないのです。
もちろん、戦略的にものを考えるための基礎はあります。
これはいろいろな経営学の教科書に出ています。
まず、これをマスターしておかなければ、あとで非常に困ることになるかもしれません。
ただ、教科書に載っている手法や枠組みなどをマスターするだけではだめなのです。
時代の要求がこれまでより一段と高くなっているからです。
先ほど申し上げたウーバーのような事例は、過去の教科書に載っている枠組みで説明できません。
従来の手法を教科書通りに暗記して使う役員では、これからを乗り越えられないのです。
もちろん、勉強は必要ですが、それを越えて自分の頭でゼロから“戦略の立て方自体”を考えていく必要があります。
戦略の立て方を教わって応用するのではなく、ゼロから考えなければならない今の役員はつらいと思います。
役員に要求される水準が非常に上がってきていますからね。

自分の強みを見つけ出す秘訣とは?

(JMA) 難易度が高くなったのですね。 本日、経営者講演(※インタビュー実施日は、バンダイナムコホールディングス石川会長)のプログラムで、自社のコアコンピタンス、何が1番の強みかというところをずっと考え抜くという話が出てきましたが、考える際のポイントは何かありますか。
(菅野) コアコンピタンスですね。ますます重要性が増してきていますが、何が自分のコアコンピタンスなのかというのが意外に難しいのです。 表面的にある技術が得意だとしても、その技術は多分、10年も持ちません。 だから、そのもう1つ下にある深層レベルの強みは何かという部分まで考え抜かないといけないのです。 表層にあるものは時代と環境によってコロコロと変わってしまうわけです。 でも、その下にある部分は10年経ってもさびつきません。 深層にあるものが基になり、技術が誕生して製品を生み出しますが、自分の強みが何だろうと考えるとき、その技術や製品が強みのように錯覚してしまいがちです。 でも、それは結果であって、決して本質ではありません。 “本当の強み”を考えるなら、深層まで考え抜く癖をつけないといけないのです。
(JMA) 役員の方ですから、自分の会社の5年先、10年先を考えたうえで、本当の強みを確認して次の展開へ進まないといけません。
その際に本質をつかむポイントいうのはあるのでしょうか。
(菅野) “本質”・・・、口でいうとサラッとしていますが、難しい問題です。
さっきの繰り返しになりますが、結果として表面に浮上したことをなぜそうなったのか、考えるようにすべきでしょう。
いつもなぜなぜを繰り返す癖をつけた方がいいですね。
「僕はAが強い」と思ったら「なぜ」と問いかけます。
答えが「それはBだから」というのなら、「それではなぜBなのか」と自問するのです。
「Cだから」という答えにたどり着いたら、今度は「なぜCなのか」とまた考えるわけです。
それを繰り返していったら、本当の強みが分かるでしょう。
あと、自社の歴史も見ておいた方がいいですね。
表面だけをみると強みも事業も変わっているかもしれません。
一貫性がないように思うことがあるかもしれないでしょう。
でも、10年、20年のスパンで通してみると、何かの共通点が見つかることもあるのです。
時間軸でものを見ることは非常に重要になると思います。
縦方向になぜかと掘り下げていくと同時に、横方向に時間軸を通して見ることがヒントになる場合が多いですね。

受講生への応援メッセージは?

(JMA) 戦略については実行も大事というお話が最初にありました。
これから従業員らを引っ張って同じ方向に向かう場合、自分自身の頭でゼロから考え、独自性を出すことが求められます。 そこには本当の強みを見つけ、戦略に結びつけることが役員に必要なわけですね。
(菅野) そう思います。
(JMA) それは難易度が高いですね。
(菅野) 難易度は本当に高くなってきました。
(JMA) 菅野先生のプログラムでは、現実味のあるロールプレイや演習が特徴的で、受講生のみなさんに徹底的に自分で考える仕掛けがあると事務局席で見ていて感じます。 ぜひ多くの役員・幹部の方々に、自分で考えるきっかけづくりの場にしていただきたいと考えています。
(菅野) はい、私としても“ゼロベースで考える”ことを徹底的に体験していただき、自社に持ち帰っていただけたら本望です。
(JMA) ありがとうございます。最後に応援メッセージをお願いします。
(菅野) これまでにCDPを受講した方と、これから受ける方へぜひ、お伝えしたいことがあります。
やはりリーダーがどちらの方向を向くかによって企業の成果に大きな差が生まれます。
みなさんの役割がますます重要になってきていることをまず認識してほしいと思います。
研修ではいろいろなことを学びますが、覚えただけでは意味がありません。
それをみなさんが実務に応用し、やりきって成果を出すことがスタートです。
ぜひ、CDPを受講して自分を変えることを意識して頑張っていただきたいと考えています。
(JMA) ありがとうございました。

※菅野氏には、経営者・幹部の経営戦略セミナーでご講義いただいております。