《第12回》株式会社バンダイナムコホールディングス 代表取締役会長 石川 祝男 氏

株式会社バンダイナムコホールディングス 代表取締役会長 石川祝男氏に、これから会社を担う役員の方々に対する動画メッセージや、社員に挑戦させることの大切さ、経営者が心がけること、などについてお伺いいたしました。

インタビュアー:一般社団法人日本能率協会 丸尾

特別メッセージ動画 ~新任取締役・執行役員の方々へ

社員を「暴走させる」とは?

<丸尾>
本日お聞きしたい内容が3つあります。
まず1つ目は、今の講演の中でもお話しいただきましたが、大きな経営改革を成し遂げていく中で、経営者として注意したことや意思決定の判断軸、
意思決定の際に留意したことをうかがいたいと考えています。

2つ目は、過去のことを振り返っていただき、ご自身の経営者としての自己研鑽についてお聞きしたいと思います。
例えば、初めて役員になられた時、また役員として役割が大きく変わった時に、どうやって克服されてきたかです。
経営者としての経験も長いと思いますが、その間もいろいろなことをされてきたと思いますので、可能な範囲で話していただけたらと考えています。

そして最後に、これから役員としてご活躍される方々に向けてメッセージを頂戴したいと存じます。

さて、今日のご講演でも戦略を大きく切り替えたり、統合したお話が出てきました。
会社の組織や社員のモチベーションも含め、大きな変化の中で経営をされていらっしゃったと思いますが、会社の仕組みや社員のモチベーションを
変えていこうとしたとき、注意したのはどういった点でしょうか。

<石川会長>
われわれの業界は変化が当たり前みたいな風土を持っています。
今までやってきたからそれでいいとか、今までうまくいってきたからこのままでいくとかいう考えは、この業界には似合わないと痛切に感じました。

だから、やっぱり変化させようと考えるわけです。
変えるためにどうするかということが、大きな視点になってきましたね。

<丸尾>
それはバンダイ様出身者、ナムコ様出身者でも、違和感なく受け止められてきましたか。

<石川会長>
「変わりなさい」というメッセージが全然伝わりませんでした。
そこで「暴走しなさい」、「事業領域など気にしなくても良い」、「IPを軸に考えなさい」とアプローチしました。

暴走というのは、基本的に今までのやり方を変えてやっていこうという意味です。
今までやってきたことを飛び越えていくわけですよ。だから、そのメッセージには思いを込めました。

<丸尾>
「暴走しなさい」と言われ、すぐに暴走するなんてなかなかできそうにないですが、いかがでしたか。
人によって口火を切れる活動は違うと思いますが。

<石川会長>
うちのグループだと、意外に暴走したいと考える社員は多いですよ。
人を喜ばせたい、驚かせたいと思って入ってきている社員が多いですからね。
それで「暴走しなさい」の一言は割と効いたみたいですね。

<丸尾>
共通のDNAの中にそういった要素が含まれているわけですね。

<石川会長>
そうです。暴走を自ら楽しみ、面白いものを提供しなさいという趣旨ですからね。
自ら楽しもうと思ったら、少しぐらいは暴走して弾けないと楽しくないでしょう。
やっぱり肝心な部分はそこですね。

<丸尾>
なるほど。
私も自ら楽しみながらという部分を素敵だと思いましたが、やっぱり自分が楽しいと思うことやそのワクワク感を伝えようとすることが、
熱い思いになって活動につながるのでしょうか。

<石川会長>
「嫌だ、嫌だ」と思いながら仕事をしても、全然意味がないでしょう。気持ちが入りませんよ。魂だって入らないでしょう。
自分自身が楽しんでやる仕事が1番だと思います。

挑戦することの大切さとは?

<丸尾>
ヒット商品の「ワニワニパニック」を開発したときも、そういったところが原点にあったのでしょうか。

<石川会長>
そのときは楽しいというより、使命感が強かったですね。何かヒット商品を出さないとヤバイという感じがありましたからね。

でも、作っていく過程は非常に楽しかったです。
その後もその前もたくさんのタイトルの開発に携わりましたが、やはり楽しいものです。
1番楽しいのは、それがお客さんに受け入れられた時です。その時のために、それまで苦労しているようなところはありますよ。
特に、家庭用で100万枚売れたゲームを作るときなどはね。

<丸尾>
成功もあれば、失敗もありますよね。

<石川会長>
いや、失敗は山ほどあります。

<丸尾>
成功と失敗の大きな違いには、何かあるのですか。

<石川会長>
バットを振らないと失敗も成功も何もありません。やってみないと分かりませんからね。
だから、1番まずいのは、バットを振らないことなのです。

<丸尾>
バットを振らないと、当たるものも当たりませんね。

<石川会長>
バットを振って空振りは当然ありますから、それはそれで良いのです。次に当ててくれたらいいと思っています。
1番まずいのは、打席に立たない、バットを振らないことです。そういう社員はいりません。

開発の話ばかりをしていますが、それは人事の世界でも、広報の仕事でもみんな同じでしょう。やっぱりバットを振らないと。
それで自分の仕事に楽しみを見つけ出し、いい人事、いい広報、いい物流をしてほしいと思っています。
その辺はどの世界でも共通のことですよ。

社員のモチベーションを上げるには?

<丸尾>
そうすると、チャレンジする、変える、ということに、とても重きを置いているわけですね。

<石川会長>
そうですね、中期計画は「挑戦・成長・進化」ですからね。

<丸尾>
ええ、そうでしたね。字もすごく勢いのある字体でした。

<石川会長>
結構、有名な先生に書いてもらったのですよ(笑)

<丸尾>
そうでしたか。日本的な「和」の良さを含んでいるような印象を受けました。

先ほども少し触れましたが、IP戦略に舵を切るという意思決定をしたとき、最も留意したことはどこですか。

<石川会長>
それは伝わらないと意味がありませんから、いろんな場所でいうことですよ。公式の場、日常で社員と接するとき、何度も何度も繰り返します。

話した側は「方針発表会でいったから伝わっているだろう」と思いがちですが、それは話した側の都合です。聞く側からすると、何度も何度も
話しても初めて聞いたということになることもあります。だから根気よく、特に1対1の場面で話すことが大事です。

リーダー研修のプログラムや合宿をやっていますが、私が要所で必ず出かけ、一緒に酒を飲みながらそんな話をするように意識づけしていました。

<丸尾>
どんなに良い戦略を描いても、実行する人に伝わっていなければどうしようもありませんね。

<石川会長>
実行する人たちに伝わらないと、何の意味も持ちません。
経営者が勝手にいっていると思われるのが、最もまずいわけです。

もう1つは社員の成功事例をどんどんオープンにすることです。みんなの前でほめてやることです。

<丸尾>
それは商品開発にかかわらず、他の場面でもですか。

<石川会長>
いろいろな表彰制度はありますが、ほめてやることが大切です。成功事例も失敗もいっぱいありますが、こういう成功事例があるから頑張ろうという方向に持っていかなければいけません。
業績が悪いからといって、社員の尻を叩くだけではだめなのです。

私もあんなことならできるのではないかというムードに持っていくことが、1番のポイントだと思いますよ。

<丸尾>
具体的なイメージを共有するということでしょうか。

<石川会長>
そうですよ、それは意識的にやっていました。1番業績が悪かった時期は、そればかりやっていましたね。
全体の業績は悪いけど、こういう良いところがある、成功事例が出てきたということを、なるべくいろいろな発表会で私のスピーチの中に盛り込み、話し続けました。

業績が悪いからハッパをかけるのではなく、どんどん成功事例を示し、ほめてやることです。ホールディングスになってから、私はいつもカバンの中に「ミニ社長賞」を入れています。
本当の社長賞は別にあり、年間で表彰し、賞金にしたら何十万円とか出るものです。
それとは違い、ミニ社長賞には1万円しか入っていません。

けど、ちょっとした感動を与えてくれる仕事はあるじゃないですか。良いことをやったと思ったら、その場で渡しています。そうすると、その人のモチベーションが変わるでしょう。
割とお金がかかるので、そんなに頻繁にはやりませんけどね(笑)。私が感動した時に渡したら、その社員は机に飾っていますよ。

<丸尾>
それはうれしいですね。

<石川会長>
もらった方はうれしいでしょう。
そういったところでモチベーションを上げてもらおうと考えています。それはきっと、意識的にやらないと無理ではないでしょうか。

サラリーマン社長の良い点とは?

<丸尾>
石川様の経営は現場に近いところで社員の方と一緒になって動いているのでしょうか。

<石川会長>
キャリアからして経営学そのものを学んだわけではありません。
ずっとゲーム開発をしてきて今の立場になりました。創業者と同じことはできません。だから、サラリーマン目線で社員と接するスタイルになりますね。

とはいっても、一応は経営者ですから、何が1番大事かといえば、社員が活性化していろいろなものが起きてくることです。ここがうちの会社にとって1番のポイントになるでしょうね。

<丸尾>
サラリーマン社長という言葉の意味は、どのようにとらえていらっしゃいますか。

<石川会長>
社員と同じ目線で仕事ができるということです。やはり社員の目線で一緒になって経営するのが、私流のサラリーマン社長だと思っていますよ。

<丸尾>
少しマイナスな表現で使う方もいらっしゃるので聞いてみたかったのですが、そういう意味だったのですね。

<石川会長>
会社というものは、50年、100年と続いていかないとだめなのです。3%ぐらいでしょう、100年続く企業は。

バンダイナムコグループがこれから50年、100年と続いていくために、今経営を任されている私がこの3年間、あるいは5、6年のうちに
何をしなければならないかを常に考えています。社員に対してもそのために「あなたの役割は何か」と問いかけたいのです。

短期的に来期の業績を上げることも大事ですが、もっと大切なのはDNAを受け継ぎ、絶やさないようにしていくことです。
50年、100年先のために何をするかということですね。

<丸尾>
私たちは「経営者の役割」として5つのアクションを定義しています。その中に、「歴史のひとコマを作る」という表現を入れています。
その考えは今も継続しているのですが、今まさにおっしゃっていただいたことと同じような考え方なのかと思いました。

<石川会長>
2人の創業者が立ち上げたDNAを絶やしてしまうことが、最も怖かったですよ。
まあ、1回ぐらいの赤字ではつぶれませんが、それが続くとつぶれてしまうわけです。
だから、DNAを絶やしてはいけないという思いが、プレッシャーになってきました。

経営者になって意識した3つの点とは?

<丸尾>
次の質問に移りますが、自己研鑽についておうかがいします。
新任役員になった時と、経営者、代表取締役になった時で違いはありましたか。もしくは変えることなく同じことをやり続けてこられたのでしょうか。
経営者の高みを目指すために何か意識してやっていたことはありますか。

<石川会長>
ちょっと恥ずかしながらになるのですが、特にやっていませんね。意識してはやっていないのです。

ただ、役員や社長になると、権限や責任は当然のことながら、大きくなっていきます。それをしっかりと受け止め、自分なりのやり方でやってきました。
役員になったら、基本的なことは勉強しなければなりませんが、何かを自分自身で習得するなどという特別なことはないですよ。

今までより広い範囲で仕事をするわけですから、広くなった分の成果を出さなければいけないとは思ってきました。仕事のやり方なんかは変えられないですね。
急に仕事のやり方を変えるとか、社長になったから変わるというのは、私にはできませんでした。

<丸尾>
そうすると、仕事上で意識していたことや、これは絶対に曲げられない、譲れないと考えていたことを挙げるとすれば、何になりますか。

<石川会長>
さっきの話に戻りますが、バンダイナムコが統合し、この先50年、100年と続けていくために、今何をしなければならないかは常に考えていました。
けど、そのためには人材を育てなければなりません。それは考えましたね。

<丸尾>
今は全力を出し続けてきたというイメージをお持ちでしょうか。

<石川会長>
社長になったからこうする、役員になったからこうするということではなく、自分のミッションを再定義するということはやりますね。
例えば、部長から役員に昇格した際、この役員のミッションは何か、自分のミッションはどうなのか、きちんと把握するようにします。

バンダイナムコホールディングスの社長になったときは、厳しいところからスタートしましたから、会社をまず復活させ、しっかりしたところへ持っていかなければならないという使命感がありました。
だから、10年経って新社長にバトンタッチできたのでしょうね。

経営者、役員が心がけるべきことは?

<丸尾>
経営の醍醐味についてどのようにお考えですか。

<石川会長>
醍醐味という言い方はあまり好きではありません。

<丸尾>
それでは、経営していて楽しいところ、やはり経営者だからできることなどはありますか。

<石川会長>
まずはグループ全員、社員全員が元気になる過程が見えることですかね。
それと月並みですが、われわれの商品やサービスを楽しんでくれるお客さんが増えることです。そういった場面を実感することが楽しいですね。

何か新しい仕掛けをして、子供たちが「キャーキャー」と喜んでくれたら、それを見ただけで涙が出てきてしまいます(笑)。

<丸尾>
そうすると、仕事の現場でも提供する商品も一貫して同じ夢を追いかけていることになりますね。

<石川会長>
そうです、もうその繰り返しです。ゴールは多分ないと思います。

<丸尾>
ワクワクする素敵な感じがします。

<石川会長>
そうはいってもやはり仕事ですから、厳しいことも辛いこともいっぱいありますが、社員にはそれも含めて楽しいと思ってもらいたいのです。

<丸尾>
バットを振り続けることにつながりますね。

<石川会長>
だから、「失敗してもいいよ」といい続けているのです。失敗だけでは困りますがね(笑)。

<丸尾>
そこもバランスが難しいところなのでしょう。でも、続けないと始まりませんね。

<石川会長>
バットを10回振っても結果が出なかったら、バッターには向かないので、用具係に配置転換するとかしなければならないでしょう。無理をさせても仕方がないと思いますからね。

<丸尾>
1人ひとりを見て、その人が活躍できる場所を提供するわけですね。

<石川会長>
本当に場所や環境を変えると、活躍することがよくあるのです。
出戻りもすごく活躍します。他の会社で修行して帰ってきたら、大活躍する人がいるのです。

<丸尾>
とても柔軟な会社ですね。

<石川会長>
柔軟な会社でないと、いけないでしょうね。

<丸尾>
業界としてもそういうところがあるのでしょうか。

<石川会長>
扱っているのがこういう商品なので、モラルとか安全性には人一倍気を使いますが、仕事そのものの雰囲気は柔軟です。
楽しい雰囲気はこれからも大事にしていきたいと思っています。

<丸尾>
将来を担う子供たちが楽しい思いをし、夢を描いていくところが、影響しているように思います。そういう部分で子供たちに貢献しているのでしょうね。

<石川会長>
昔遊んだおもちゃを作りたい、遊んだゲームの会社に入りたいと考える人はいるでしょう。
私もその1人ですが、それは人生を変えますからね。

<丸尾>
今後も是非、夢を与え続ける企業でいていただきたいです。
最後になりましたが、これから経営者、役員として会社を担っていく方に対し、応援メッセージをお願いします。

<石川会長>
これから社長をはじめ、経営陣を目指す人に対して、メッセージを述べたいと思います。
今受け持っている部署の部下が1番力を発揮できるのがどういう状態かを、常に意識しているといいでしょう。
そのためには、ご自身もある意味、楽しんで仕事をし、部下も楽しみながら仕事をする必要があります。

自分にできることを常に意識しておいてほしいと思います。
その部署の成果が上がると、当然認められます。さらに昇進のチャンスも出てきます。
受け持った部署をいかに活性化させるか、社員を楽しく前向きに仕事をさせるか、常に意識しておくべきです。

とはいいながらも、なかなかトップは大変です。だから、体力だけはしっかりつけておいてほしいと思います。

<丸尾>
本日は、どうもありがとうございました。

※石川氏には「CDP 経営者・幹部の経営戦略セミナー」にご登壇いただきました。
https://jma-top.com/cdp01/cdp_b/