《新任監査役・監査(等)委員セミナー》高橋講師インタビュー

「新任監査役・監査(等)委員セミナー」の講師、高橋均氏。

新日本製鐵株式会社(現在の新日鐵住金株式会社)監査役事務局部長の実務経験をもとに、獨協大学で会社法の専門家として教鞭を取るかたわら、企業研修もされています。

企業統治の強化が求められる一方で不祥事が話題となる昨今、監査役の役割とその心構えを伺いました。

監査役が悩める存在といわれるのはなぜ?

(JMA)
日本能率協会で新たに開催することになった「新任監査役・監査(等)委員セミナー」の講義を高橋先生にお引き受けいただくことになりました。
ぜひ、今のお立場とご経歴を簡単に教えてください。

(高橋)
私は今、獨協大学法学部で会社法を中心に教える教授をしています。

私は1984年、当時の新日本製鉄、今の新日鉄住金に入社し、主にコーポレート部門の業務をしてきました。
その中で監査役の仕事もした経験があります

それから出向という形で日本監査役協会に移りました。
そのころ、監査役関係も含めて会社法改正の議論があり、当時の日本監査役協会の会長が法制審議会会社法制部会の委員を務めていたのです。
主にそのサポート役として日本監査役協会の常務理事になった経験も持っています。

その後、獨協大学の法科大学院で司法試験を受ける学生たちに会社法を教えていましたが、2017年4月から法学部に移りました。

(JMA)
“実務のご経験”と“専門知識”の両輪をお持ちであることが先生の強みだと改めて感じました。

さて、監査役を目指して監査役になる人が少ないと聞いています。
そのため、監査役は悩める存在だというふうにおっしゃる方もいます。

監査に関する予備知識がなかったり、心の準備が十分にできていなかったりして、監査役の仕事とは何だろうと悩んでいらっしゃるのかもしれません。
先生が多数の会社を見てきた中で、監査役のあるべき姿としてイメージするものがありましたら、ぜひ教えてください。

<高橋氏>
監査役の“職位や仕事”自体を、多くの役職員、特に従業員レベルの人たちは分かっていないのだと思います。

監査役に20代や30代の人がなることはまず考えられません。
監査役は会社法上の正式な役員で、取締役と同じ立場です。
そして、会社とは委任関係にあります。

一担当者や中間管理職の時代から日ごろ、監査役と年中接していれば話が違うのでしょうが、そうでなければなじみがないでしょう。
監査役は役員で、社内的には高い地位にいますからね。
同じ監査でも会計監査は公認会計士という国家資格を持つ専門家がやりますから、イメージを持ちやすいでしょう。

しかし、監査役には、なるための資格など存在しません。
監査役の仕事の中身を考えたとき、具体的に何をどこまでやればいいのか、イメージがわかないと思います。

私はこの2つが大きな原因ではないかと理解しています。

今の監査役に求められていることとは?

(JMA)
確かにそうですよね。
でも、監査役のイメージがわかないまま就任したとしても、なったその日から実際には役員であり、権利も増え、社内で重要な役割を果たすようになります。

社会的にもコーポレートガバナンスの導入で企業統治の強化が進んでいますが、監査役の役割もそれに伴って非常に大きくなっていると思います。
今の時代の監査役に求められること、会社が期待する姿はどういったイメージなのでしょうか。

(高橋)
確かに会社法の改正やコーポレートガバナンスの導入、東京証券取引所の規則改正など大きな変化が訪れています。
中には監査役が損害賠償の請求を受けた例もあります。
ときどき新聞などで監査役のことが報道されるようになりましたから、ひと昔前に比べると監査役という言葉をよく見かけると感じる人が多いでしょう。

ただ、それでも監査役自体の目的や監査ということに対しては、何となく分かったような分からない部分が多いのではないでしょうか。
監査役の目的が何であるのか、把握しておく必要があります。

業務の執行とはものを売ったり買ったりすることです。
これは取締役でも部長、執行役員でも同じでしょう。
それに対する監査がどういうものか考える際、最初に監査の目的が何なのかを思考しなければなりません。

監査役は会社法上も明らかに執行部門から独立しています
だからといって、監査役と執行部門が対立する立場にあるわけではありません。

会社が世間を騒がす不祥事を起こさないために、監査を通じて貢献するのが、監査役本来の役割です。
それは株主や第三者も含めた利害関係者のためになることです。
ここがやはり原点
だと思います。

「ガバナンスの一翼を担う監査役」という表現がされているのは、そういうことが背景にあるからです。

(JMA)
監査役の立ち位置は日本独特という表現をすることもありますが、グローバルに展開している企業も国内だけで営業している会社も目的は同じと考えて良いのでしょうか。

(高橋)
全く同じだと思います。
例えば米国は確かに監査役がいませんが、それに代わる存在として非業務執行取締役を置いています。
要するに業務を執行しない社外取締役です。
彼らもしくは彼女たちが監査役と同様にガバナンスの役割を果たしているのです。

日本は取締役と別に監査役を株主総会で選任してガバナンスの一翼を担わせていますが、並列の形を取っているだけが違いで、仕組みに差があるだけではないでしょうか。

法律と実務のギャップが生まれる理由とは?

(JMA)
高橋先生は実務経験も豊富ですが、新任の監査役がよく突き当たる壁や課題、悩みなどを教えていただけますか。

(高橋)
これは監査役制度に限った話ではありませんが、会社法をはじめとする法律は国会で決められるものです。
株式会社である以上、会社の規模や上々の有無に関係なく、会社法の規定を受けています。
当然のことながら、いろんな会社が規定を受けるので、幅広い規定になっています。

だから、規定を自分の会社に当てはめようとした際、法律が立法趣旨として考えていることと実際の実務でギャップが出てくることがどうしてもあるのです。

極端な例を申し上げますと、会社法の383条に「監査役は取締役会に出席し、意見陳述しなければならない」という規定があります。
義務規定ですから、努力目標ではないのです。

そんなとき、「自分は取締役会に出席するのが当たり前で、そこで何か意見をいわなくてはいけない」と思うかもしれません。
でも、実際の企業は取締役会という最終機関で議論する前に、経営会議や常務会、あるいはいろいろな委員会で話し合い、そこにも監査役が携わっています。

それなのに、急に取締役会で意見陳述しなければならないといわれたとき、「自分は何をしたらいいのか」、「経営会議で話したことをもう1度、いわないと法的な責任を取らされるのか」と考えてしまいます。
この辺りがギャップを生んでいるのでしょう。

だから「ここまでやっておけば取締役会で発言しなくていい」とか、「会社法の立法趣旨からするとガバナンスの一翼を担う意味で必要があれば意見陳述しなければならないが、それは取締役会という場所に限らない」などと考えることが、実務と法律のギャップを埋める早道ではないでしょうか。

私はここが大事だと思いますよ。

(JMA)
なるほど。

(高橋)
確かに書いてあるから やらなくてはいけない、と思う方もいらっしゃるでしょう。
でも、実際は手取り足取り書いている部分もあれば、かなりあいまいなところもあります。
それでギャップが生まれてしまう
こともあるはずです。

(JMA)
その辺りは先生のセミナーでも紹介いただいているポイントになるのでしょうか。

(高橋)
はい、例えばよく比較するのが内部監査部門です。

企業によっては独立していないケースもあると思いますが、内部監査部門は法定化されていません。
だから、内部監査部という名前を付けるのも自由だし、社長直属でやろうと総務なんかと並列した組織にしようと構わないわけです。

これに対し、監査役は会社法上の制度です。
会社法にやらなくてはいけないことが書かれていますから、その点をまず認識したうえで、法律と実務の穴埋めをどうすればいいのか、考えることが大事でしょう。

それが最終的に会社の不祥事防止に役立てばいいと思います。

監査の仕方を見直す必要性とは?

(JMA)
前例踏襲でやっていく方法もあるでしょうが、そのやり方でいいのかどうか、見直す必要はあるのでしょうか。

(高橋)
私はその必要があると思います。

先ほども申し上げましたが、監査役が何をやっているのか分からないと思った際、どうしても前任者のやり方を踏襲することがあるでしょう。
前任者から何をやってきたかの引き継ぎがないとき、何をすればいいのか分からなくなるかもしれません。

しかし、世の中は不祥事の発生や法令の変更などいろいろなことが常に動いています。
監査役はそれに沿う形でかかわっていくしかないのです。
ガバナンスとか内部統制に終わりはありませんから、それだけ監査役はきちんと仕事をしなければならないことにもなります。

前任者と同じことをすればことが済むわけではありません。
直近の裁判例や法令を参考にして、具体的に対応していかなければならないのです。
これまでならば良かったことでも、新しい制度や判例に照らし合わせると、もう少し踏み込んだ実務をしなければならないこともあるでしょう。
その点をしっかりと理解することが大事です。

(JMA)
そういう意味でもぜひ、こういうセミナーに来て、最新の情報と自社の比較をしていただけると非常にありがたいです。

(高橋)
もう1点付け加えると、法律は本当に分かりにくいものです。

私は法律をずっとやってきましたし、世の中には法学部で昔学んだ人もいれば、法学部ではなかったので学んだ経験がないという人もいると思いますが、どんな人にとっても分かりにくくなっています。

私は今、司法試験を受ける学生を教えていますが、本当に苦労している学生が多いです。
条文自体が正確性を期すために、非常に読みにくくなっています。
読み方や用語も日常の使い方と異なります。

会社内で法務をずっとやってきた人なら、立法趣旨などにある程度の知見を持っているかもしれませんが、恐らく監査役になる人で法務出身者は圧倒的に少ないでしょう。
だから、私には法律の基礎や監査役制度を理解するために大事な言葉、法律の読み方などを説明する義務があるように感じています。

監査役と監査(等)委員/非業務執行取締役の違いとは?

(JMA)
高橋先生はいろいろな企業に入り、社内教育していると聞いています。
その中には監査役が監査を実行するところがあれば、委員会という形で監査する会社もあると思います。
それぞれ役割に違いなどあるのでしょうか。

(高橋)
監査役制度そのものは非常に歴史があり、明治32年に始まりました。
これに対し、委員会には指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社の2種類がありますが、ともに非常に新しい制度です。

指名委員会等設置会社は平成15年の商法改正で入ってきました。
監査等委員会設置会社は平成26年の改正会社法で導入された制度です。

共通点はいずれも非業務執行の役員である点です。

基本的にやるべきことも会社のガバナンスの一翼を担う点は変わりません。
法律の条文を読んでも、中身が8割方同じといえるでしょう。
異なっているのは、監査役に対し、委員会を持つ会社は非業務執行取締役が監査委員などに就任している点です。

監査役は取締役会で意見陳述しても議決権を持ちません。
これに対し、非業務執行取締役が取締役という職位に変わりありませんから、議決権を持ちます。
取締役会で議論していることに意見を述べるだけでなく、賛否の意思表示をしなければならないのです。

その点を考えると、委員会型の非業務執行取締役は結構、踏み込んだ形で物事を理解し、問題思考を持っていなくてはいけないと思います。

ただ、この点によく誤解が見られるのですが、監査役が適法性しか見てはならず、妥当性について一切触れてはいけないということはありません。
何か意見があるのなら、妥当性について発言しても一向に構わないと考えています。

監査役は過去のキャリアを生かすべきなのか?

(JMA)
妥当性と適法性の違いについて、もう少しご説明いただけますか?

(高橋)
適法性は法令違反かどうかということです。
これは違法とか、この法令に反しているということを、監査を通じてきちんと意思表示することです。
一方の妥当性は、例えば収益がものすごく下がっているので、事業の推進が妥当ではないと指摘することなどを指します。

(JMA)
経営判断に関してという意味なのですね。

(高橋)
そういうことです。

学界では監査役は違法性監査に限った方がいいという説が強いことも事実です。
でも、実際の監査で監査役が違法性や妥当性を意識することはあまりないと思います。
私がいた会社もそうでした。

例えば、収益が下がってくるということは一見すると妥当性の問題のように見えるかもしれませんが、収益悪化のその先に粉飾決算などの不祥事が起きることもあります。
そこまで懸念するのであれば、収益をしっかりと上げることが横領や粉飾を避ける意味を持つことになります。
そのために、あえて監査役が発言するのは一向に構わないと思います。

かといって、それまで営業本部長をしていた人が監査役になり、「もっとこうやった方が売れるのでないか」とか「こうして売るべきだ」などと営業本部長時代と同じように主張したとすると、ちょっと逸脱しているように見えます。
それをやってはいけないという規定が法律にあるわけではありませんが、執行部門からすると「何で監査役にそこまでいう権限があるのだ」と思って反発してしまうでしょう。
その結果、監査業務の遂行にマイナスとなる可能性も否定できないと感じています。

(JMA)
そうすると、監査役はそれまでの役割を一気に変えないといけない部分もあるのでしょうか。

(高橋)
そこはあまり意識しなくていいと思います。

例えば、営業出身の監査役なら独占禁止法でどういう点が問題になるのか、肌感覚で分かっているでしょう。
監査の立場に変わったときでも、「こうやるとちょっと危ない」とか「こういう行動を営業がすると法に触れるかもしれない」とかに気づくわけです。

監査役になったからといって今まで自分がやってきたキャリアを捨てる必要はありません。
これは購買部門出身であろうと、管理部門出身であろうと同じです。
過去のキャリアをどんどん生かしたうえで、経理や財務、法律の知識を加えるなどして幅を広げていくべきなのです。

「“一から何かをしなければならいない”ということではない」ということは、強調しておきたいですね。

新任監査役への応援メッセージは?

(JMA)
最後に新任監査役の方や、受講を検討している人へ応援のメッセージをいただけますか?

(高橋)
監査役はコーポレートガバナンスの一翼を担う立場です。
特に新任の方は「何をしたらいいのか」などと悩むこともあるでしょう。

しかし、コーポレートガバナンスの一翼を担うことは非常に大切な役割で、法令上、世間的にも監査役に対する期待が高まっています。
一定の法律知識、知見を身に着け、道実務に展開するかを考えていけば、それが結果的に会社のためになり、自分のキャリアにもつながるのでないかと思います。

(JMA)
確かに書店へ行けば法律書がずらりと並んでいますから、どれから読むべきなのか悩んでしまいますが、こういうセミナーに来れば妥当性と違法性の違いなど重要な点がすぐに分かりますね。

(高橋)
本を読めば監査役がどんな制度でどういう規定があるのかが分かりますが、実務と切り離すことはできないし、私は切り離すべきでないと考えています。

監査役も役員ですから、法的な責任を問われる立場です。
つまり代表訴訟の対象になるわけです。
消滅時効は10年です。

監査役の任期が終わったからといって、無罪放免ではないのです。
会社のためでもあり、かつ自分自身を守るという意味でも、きちんと制度を理解してほしいですね。

(JMA)
本日は、ありがとうございました。

(高橋)
監査役・監査(等)委員の皆さんのお役に立てればと思います。
こちらこそ、ありがとうございました。

※高橋氏は、新任監査役・監査(等)委員セミナーで講義します。
新任監査役・監査(等)委員セミナーの詳細はこちら
https://jma-top.com/kansa/