経営者517人に聞いた「組織・人事の課題」とは?

日本企業の経営者は、組織や人事の現状と課題について、どのように考えているのでしょうか。今回は、組織・人事領域に特に焦点を当てて調査を実施した『日本企業の経営課題2021』より、経営者が感じている組織・人事領域の課題についてまとめました。

※『日本企業の経営課題2021』全文を読みたい方はこちら

労働市場の変化により重要度が増す4大課題

2021年度の結果全体をみると、組織・人事領域における現在の日本企業の課題は、1位が「管理職層(ミドル)のマネジメント能力向上」、2位が「人事・評価・処遇制度の見直し・定着」、3位は「組織風土(カルチャー)改革、意識改革」「次世代経営層の発掘・育成」。この4項目を重要課題と捉える企業数が突出しています。

ここ数年、常に上位に登場し続けている4つの課題について、2019年度から3年間の変化をみてみると、2位の「人事・評価・処遇制度の見直し・定着」は、26.9 %→29.5%→33.8%と増加。3位の「組織風土(カルチャー)改革、意識改革」は、30.2%→32.3%→33.3%(同)と、重要度が高まっていることがわかります。

「人事・評価・処遇制度の見直し・定着」が増加した背景には、ジョブ型人事制度の導入や、兼業・副業の容認、新卒一括採用の見直しなど、いわゆる“日本型雇用システム”の見直しに関する議論の拡がりがあります。

また、「組織風土(カルチャー)改革、意識改革」が重視されているのは、労働力不足が企業活動に明確な影響を及ぼすようになってきたためと推測できます。多くの企業が、自社のさらなる成長のために、社員の成長意識を育む組織風土、生産性向上につながるチームワークの強化、エンゲージメントの醸成などが必要と考えているようです。

「次世代経営層の発掘・育成」の重要性については、中小企業において事業継承が課題となっているほか、上場企業においても、経営人材の後継者計画の策定が求められているコーポレートガバナンス・コードの影響が考えられます。

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コロナ対応の労働環境整備は、概ねひと段落

そのほかの特徴として顕著なのは、2020年の調査で急増した「多様な働き方の導入(テレワークなど)」が16.8%減少していること。新型コロナウイルス感染症が蔓延した2020年春に、多くの企業が課題とした在宅勤務や時差出勤等への対応は、2021年にはおおむね落ち着いたと考えられます。

さらに、LGBTQに対する社会的な関心が高まっているなか、女性活躍の推進も含む本質的なダイバーシティへの取り組みが急務となっています。そうした背景もあって「ダイバーシティの促進」も、3.6%増加しています。

大企業はダイバーシティ促進、グローバル経営に課題感

続いて、従業員規模別に課題意識の違いを比較します。

大企業では、「組織・人事領域で重視する課題」について、「次世代経営層の発掘・育成」「組織風土(カルチャー)改革、意識改革」「人事・評価・処遇制度の見直し・定着」が1位〜3位となり、課題と感じている経営者が年々増えています。

また、中堅企業や中小企業と比べると「ダイバーシティの促進」「グローバル経営人材の育成・登用」の比率が高くなっているのも特徴です。新たな成長を遂げるための決め手は多様な人材の活躍にあり、そのために組織風土や社員の意識を変革していく必要があると感じている経営者が多いようです。

中堅・中小では「ミドル層のマネジメント能力向上」が課題

中堅・中小企業では、「管理職層(ミドル)のマネジメント能力向上」が、突出した課題となっています。限られた人員で会社運営をおこなっている中堅企業・中小企業は、大企業以上に経営戦略を実行に移すミドル層の役割が重視されていることがわかります。

中堅企業は、大企業と同様に「組織風土(カルチャー)改革、意識改革」の比率が高くなっていることも特徴のひとつです。一方で、「労働時間の適性管理・削減」の比率は大企業を大幅に上回っており、労働力不足が深刻になっていることがうかがえます。

これに対して中小企業は「優秀人材の獲得」が重要な課題となっています。「効果的な組織体制の設計」と併せて考えると、継続する人材不足のなか、限られた人員でいかに組織運営を行うかが喫緊の課題となっているといえそうです。

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課題の違いが明確になった製造業と非製造業

最後に、製造業と非製造業の課題認識の違いをご紹介しますみてみましょう。製造業で課題として高い数値となっているのは、「グローバル経営人材の育成・登用」「ダイバーシティの促進」です。
これは、国内製造業が非製造業よりも海外進出が進んでいることや、男性従業員の比率がもともと高めであることなど、製造業ならではの環境が影響していると考えられます。

一方の非製造業では、「労働時間の適性管理」が課題であると感じている企業が製造業よりも多いことが特徴です。労働集約的な事業・サービスも多い非製造業では、働き方改革への対応が課題となっています。

加えて、「リーダーシップ、チームビルディング力向上」も増加傾向にあります。リモートワークや副業推進など、これまでになかった働き方が広まるなかで、管理職がどのようにリーダーシップを発揮し、チームワーク強化、エンゲージメントの向上を図るかが重要なテーマとなっているようです。

経営層も人事も、学習を求められる時代が到来

少子高齢化が進み、減少の一途を辿っている日本の労働人口。そのなかで、いかに優秀な人材を獲得し、成長を促し、強い組織作りをしていくかが、日本企業全体の課題となっています。
「戦略人事」という言葉も定着し、さらには「人的資本経営」の時代を迎え、もはや組織・人材の課題は“人事部マター”ではなく、経営戦略との一体化が必須となっています。

経営者や役員が“人事のわかる経営層”となり、人事を管掌する役員が“経営のわかる人事”となるために学びの機会を持つことは、将来の組織存続のためにもますます重要になってきます。文字どおり「サステナビリティ経営」の最重要のキーファクターとなっているのです。

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