監査制度と公認会計士監査 :役員に必須の会計知識とガバナンス 2

日本能率協会の経営情報誌『JMAマネジメント』の誌面から「役員に必須の会計知識とガバナンス」全7回の連載をお届けしてまいります。
本連載は監査法人の仕事に精通する伊藤浩平氏(公認会計士・税理士)、ならびに、製造業の利益管理やIT活用に精通する経営コンサルタントの本間峰一氏(中小企業診断士)に執筆いただいた全7回の連載です。

ACEコンサルティング株式会社 公認会計士、税理士
伊藤浩平 氏

今回はコーポレート・ガバナンスを支える監査制度、なかでも公認会計士監査を中心に説明します。

監査制度

監査とは「企業などの特定の行為、またはその行為の示す情報が適正か否かを、第三者が検証し報告すること」(広辞苑第六版)という意味で使われます。
監査実施主体に着目すれば、①監査役(ただし取締役会内に監査委員会が設置されている株式会社では監査委員。以下、こうした会社では監査役を監査委員と読み替えてください)により実施される監査役監査、②企業の内部監査組織により実施される内部監査、③企業外部の公認会計士や公認会計士が共同で設立した監査法人により実施される監査(公認会計士監査)の3つに大別されます。
①監査役監査
監査役は、会社法に基づき、取締役の業務執行が適法であることを検査、監督する業務監査を行うとともに、会計監査も実施します。ただし会計監査人設置会社や上場企業においては、個々の会計処理の適正性は、会計監査人(監査を受託した公認会計士・監査法人)が判断しますので、監査役は、会計監査人の体制、会計監査の方法および結果の相当性について監査します。会計監査人が設置されていない会社においては、個々の会計処理の適正性も監査役が判断する必要があります。
いずれにせよ毎期、財務諸表の公表に合わせて監査役または監査役会は、監査の結果を示した監査報告を株主に提示し、その内容に関して一定の責任を負うことになります。
②内部監査
内部監査は、会社の内部監査担当組織が、原則として取締役の指揮命令のもとで実施する監査です。明文化された準拠法がない点でも、監査役監査や公認会計士監査と異なります。通常は、従業員の法令や社内規則への遵守状況の監視や、業務の効率性の検討などがなされます。
③公認会計士監査
公認会計士監査は、企業が公表する財務報告に対する会計監査です。準拠法規によって、会社法に基づく会計監査人監査と、金融商品取引法に基づく監査(金商法監査)とに分けることができます。
会計監査人監査は、前回も述べたとおり、会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)などに義務づけられています。それに対して金商法監査は、上場会社およびそれに準ずる会社に対して義務づけられています。上場会社は会社法上の大会社に該当する場合が多いので、大半の上場会社は金商法監査に加え、会計監査人監査を受けることになります。この場合、同一の監査人が両方の監査を担当するのが通常です。
会計監査人監査では、毎事業年度の財務諸表など(会社法上、「計算書類」と呼ばれる貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書および個別注記表並びにその附属明細書)が適正に作成されているかどうかを調べ、監査報告書で監査意見が表明されます。
他方、金商法監査では、会計監査人監査で対象となっている親会社単体の財務諸表に加えて、連結財務諸表や、経営者が内部統制を自己評価した内部統制報告書に関しても、監査意見を表明する点が大きな特徴です。また上場企業は、四半期ごとに財務諸表を公表する必要があることから、当該四半期財務報告書に関してレビュー(事業年度ごとの監査よりも簡素な検証手続き)を行い、四半期レビュー報告書においてレビュー意見を表明します。
制度説明はこれくらいにして、以下、筆者が公認会計士監査に関してこれまで受けてきた質問のなかから、興味深いものを取りあげたいと思います。

公認会計士監査と税務調査の違い

公認会計士監査を初めて受ける会社役員の方からよく質問されるのは、国税当局による税務調査との違いです。公認会計士監査と税務調査は、ともに外部の人間が、その対象会社の経理の実態を調べる、という点では共通していますが、そもそもの目的が異なります。
税務調査は、税務申告内容が正しいかどうかを確認することが目的です。国税当局は「納税額は適正か」を調査するため、納税者としては、納税額が多いことは国税当局にとって善と考える傾向にあるという見方をもつとよいかもしれません。税務調査では法人の利益(申告された法人所得)が過少計上されていないかを検討することに力点が置かれます。逆に利益を実態より水増しする粉飾決算は、比例して納税額も増えるので、あまり是正を指導されないということがあります。
公認会計士監査は、コーポレート・ガバナンスの一環として、財務諸表の内容が適正にその会社の経営成績・財政状態を表しているかどうかを検証し、報告するのが目的です。実態と異なる財務諸表が公表されるならば、それを信用した投資家や金融機関が損害を被るおそれがあるからです。他方、経営者には、①株価を上昇させる、②金融機関の融資を受けやすくする、③自己の報酬を増額しやすくする、などのために自社の利益や純資産を実態よりよく見せることへの潜在的誘因があります。したがって公認会計士は、利益や純資産が水増しされていないかを重点的にチェックする傾向にあります。
また調査手段においても両者には違いがあります。国税当局は強制権限をもつので、対象会社の会計帳簿や銀行口座のみならず、取引先などの決算書や銀行口座まで見ることができます。他方、公認会計士は対象会社の帳簿類は見ることができても、他の会社を調査する権限はもたないなど、その調査には制約があります。
たとえば、会社の従業員が会社資産を横領していたり、仕入先から個人的なリベートを得ていたりするたぐいの不正事件は、公認会計士監査では判明せず、国税当局が最初に気づくことが多いのですが、その理由の1つは調査手段の差にあると思われます。

二重責任の原則

公認会計士監査を受けた経験のある方のなかには、監査人の公認会計士が会社に来ても指摘をするだけで、会社業務を何も手伝わないのはなぜか、という疑問をもつ方もおられるようです。税理士が顧問先の税務申告書を作成し、弁護士が顧問先のために訴状を作成するのとは大きな違いです。
このような状況になっているのには、監査の大前提である「二重責任の原則」がかかわっています。二重責任の原則とは、監査対象となる情報の作成者と、監査人の役割・責任を明瞭に分離する原則です。
公認会計士監査に即して書けば、経営者は、財務諸表を作成し、かつ、その財務諸表が正しく作成されるよう社内体制(内部統制)を整備・運用する責任があります。他方、監査人の公認会計士は、独立した立場から監査意見を表明する責任があります。
仮に監査人が対象会社の財務諸表の作成をしたとすれば、その監査は、自分の作成物を自己検証するにすぎなくなり、客観性が失われてしまいます。
十数年前までの時代は、この二重責任の原則は、会計監査の現場ではあまり徹底しておらず、財務諸表作成の一部のプロセス(たとえば決算仕訳を起案する)を監査人自らが担っているような会社もありました。
しかし、監査人である公認会計士と対象会社の経営者がなれあいになり、監査人が対象会社の粉飾を知っていながら、わざと見逃してしまったいくつかの事件への反省もあり、最近は現場でも二重責任の原則が徹底されるようになってきました。
なお、当該会社の監査人でない公認会計士が、決算などを手伝うことは問題ありません。

次回は「監査意見と公認会計士監査の限界」について解説します。

本コラムは2016年4月の『JMAマネジメント』に掲載されたものです。

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