ヤマトホールディングス株式会社 代表取締役会長 木川 眞 氏に、経営者の人材育成や事業転換時の経営者としての覚悟などについてお話を伺いました。ぜひご覧ください。(※敬称略)

インタビュアー:一般社団法人日本能率協会 井上

会社として望ましい経営者の育成方法とは?

(JMA) 前回(参考:第5回)のインタビューでは、新任役員の皆さんへのメッセージということで、”為さざるの罪”のお話などをいただきました。
本日は、会社として、どのように経営者を育成するのが望ましいのかについて、木川会長の持論などをお聞かせいただけますでしょうか。
(木川) 私はやはり、内部からどんどん経営者の候補群を増やしていくという、サクセッションプランを回すことが基本だと思います。
ただし、大きく事業転換をする時には、いかに相応しい人材を外部から引っ張ってこられるかということもポイントだと思います。
当社の場合は、私が11年前に来た時、最初に、中堅クラスの若手を次世代リーダーとして育成する研修を手がけました。
その時の第一期生は、かなりの人数が役員になりました。なかには社長をしている人もいます。
だからサクセッションプランをきちんと実施していくことが必要です。
人材育成には少し時間がかかりますので、研修という場を与えて育てると同時に、それに競わせるように、ある一定レベル以上の外部人材を入れていくことも必要です。
このコンセプトのキーは、混ぜる、あるいは混ざるということです。
多様化という面では、やはり経営人材も多様化することが、一番変化をスピードアップしてとらえることができると思います。
グローバル化という視点で考えてみても、適切な人材はすぐには育ちません。
今のボードメンバーも、私を含めてプロパーではない人間もいます。
社外取締役は、もちろん外部出身の方々です。

外部からの人材が必要とされる時とは?

(JMA) 新しい方向性や、会社を大きく変える時に人材が必要であれば、外からも人を入れると。
(木川) 人物にもよりますが、あまり外部の人材に依存しすぎることには、疑問を持つこともあります。
しかし、例えば大きく企業の軸を立て直すとかという時に、外部の人材に来ていただくことも、必要だと思います。
(JMA) 多様な価値観を受け入れられているということですね。

事業転換をする時に苦労したこととは?

(木川) 余談になりますが、当社の歴代の経営者は苦労して個人向けの宅急便事業を育ててきたため、「バリュー・ネットワーキング」構想を発表し、企業物流にトライする際は苦労しました。
宅急便を始めた当初、企業物流をあえてお断りして事業転換したため、その当時大変苦労した方から企業物流の領域にも広げることに対して、反対意見も出ました。
(JMA) かつて企業物流を捨てて、さらにもう一度踏み込もうとする時に腹をくくったのですね。
(木川) 確かに、個人向けの宅急便事業で、まだまだやるべきことが残っているのは事実です。
今回我々が行っているのは、個人向けの宅急便事業をさらに強めながら、企業物流の領域をやるということです。
当時はこんなエピソードもありました。
プロパーから役員になられたあるOBから「バリュー・ネットワーキング」構想を発表した時にすぐに呼ばれました。
(JMA) お声がかかったのですね。
(木川) その方に呼ばれて、「木川さんは外部から来てよくやっているとは思っていたけれども、さすがに企業物流への転換はやり過ぎだ、個人向けの宅急便として、やることはまだ山ほどある」と、叱られました。
仕事のやり方は変わるし、ネットワークも変わる、何よりも私たちが個人向けの宅急便を始めた当時、苦労してお取引をやめた企業物流を大々的に全面に出すということは、もう心情的に認められないと言われました。
でも、そうではありませんと、個人向けの宅急便を否定していませんと何度も説得して、今では、その方も大応援団になってくださいました。
(JMA) そんなことがあったのですね。
(木川) 苦しい時代を生き抜いてこられた歴代OBの方の言葉はやっぱり重い。
新たな領域へ踏み込むのは、それまでの考え方を一部変革する必要もあり、簡単なことではありません。
(JMA) そうかもしれませんね。

経営者としてなすべきこととは?

(木川) 企業物流にも軸足を置くと決めた時、当時の相談役が、いくら理詰めで実行しても、失敗するリスクはあるかもしれないが、その時は一緒に責任を取ろうとおっしゃった。
カッコいいですよね、殺し文句となりました。
だから私は、経営者としてその気持ちでやりました。
(JMA) 経営者としてやるべきこととして、思い切ったことをされたわけですね。
本日はありがとうございました。

※木川氏には、第98回新任取締役セミナーでのご講演後、本インタビューにご協力いただきました。