《第6回》三菱電機株式会社 取締役会長 山西 健一郎 氏

三菱電機株式会社 取締役会長 山西健一郎氏に、ご自身が役員になられた当時の思いや経営者として大切にしている力などについて、お話をお伺いいたしました。新任取締役・執行役員の方に向けての力強い動画メッセージもいただいておりますので、ぜひご覧ください。

インタビュアー:一般社団法人日本能率協会 井上

特別メッセージ動画 ~新任取締役・執行役員の方々へ

執行役になって苦労したこととは?

<井上>
山西会長は2006年に執行役になっていますが、昇進を予想されていましたか。

<山西会長>
いえ、全く予想していませんでした。
うちの会社は執行役の下に役員理事というポストがあるのです。
役員理事になって執行役へ進むのが、うちの会社の通例です。
私は役員理事になっていませんから、執行役になるとは全く予想していなかったわけです。
90%以上の人が役員理事を経て、執行役に進んでいます。
だから、本当に想定外の人事でした。

<井上>
予想しないままに執行役になって苦労したことはありますか。

<山西会長>
執行役になってからは、本当に苦労の連続でした。
品質の不具合などの問題が、発生することがありますからね。
生産システム本部の中で品質改善活動をしていましたが、これはどちらかというと不具合を未然に防ぐ前向きの活動です。
それをしていても、やはり不具合は出ます。

生産関連の問題は、突発的に起きるので、最も大変なことです。
棚卸資産の指標などは時間とともに良くなったり、悪くなったりします。
ところが、品質の問題は突発的なのです。いつ起きるのかは全く分かりません。
今はうまくいっていても、あしたは何が起きるか分からないのです。安全もそうですよね。
安全、品質、コンプライアンスの問題は、すべて突然に起きます。
ずっと過去に原因があることが、急に表へ出ると、トップに立つ者としては1番堪えます。

生産システム本部というのは不祥事を別にして、品質や安全の問題に対応する部門です。そこの本部長になったので、そういう意味では大変でした。

経営者に不可欠な4つの要素とは?

<井上>
山西会長は2008年に部署を移り、2010年から社長になりました。
執行役の立場から執行役社長の立場に変わり、感じた変化の中で1番大きかったのは何ですか。

<山西会長>
やはり1番感じた変化は、最終責任があることです。当たり前ですが、責任がすべて私のところに来ます。1執行役と社長では責任の重みが全然違ってきます。
役職が変わってどう考えたかということではなく、必然的にそうなります。
責任感も持たなければなりませんから大変でした。

<井上>
ご講演の最後に話していただいた4つの経営者に不可欠な要素、これは執行役にも当てはまると考えていますか。

<山西会長>
それは執行役の話です。私は経営者というとき、執行役のつもりで語っていますからね。

<井上>
これはちょっと聞きにくい質問ですが、その経営者に不可欠な要素は山西会長にもとから備わっていたものですか。

<山西会長>
私にもとから4つの要素が備わっていたとは思いません。4つの要素の中でも重要なのが、闘争心、倫理観、人間的な魅力、評価の公平性です。
私はとにかくそれなりに闘争心はありました。倫理観もそれなりに持っていたとは思います。だけど、本当に強い闘争心や倫理観ではなかったのではないでしょうか。

それと人間的な魅力を備えるのも大変です。こうした点を備えるのは、そんな生易しいものではないでしょう。潔さとか謝罪とか、どこまでできるかといったら、人によって違ってきます。

そして評価の公平性も難しいです。評価を公平にしているつもりだけど、公平だと感じない人がたくさん出てきます。評価をどういうふうに理解してもらうかというと、実績しかないのです。社長の評価は公平だと、かなりの人が思うかどうかなのです。
そうなると、自分もそう思うという人が増えてきますが、それまでに時間がかかります。

優れた経営者になるために大切なことは?

<井上>
どんなふうにすれば、4つの要素を兼ね備えた経営者になれるのでしょうか。

<山西会長>
1番大事なのは他人の評価だと思いますね。私に対して意見を言ってくれる人が、上も下も合わせて10人ぐらいいます。言いにくいことも言ってくれる人がね。
それで社長になったとき、そのうちの3人に「社長をやめるべき時期だと思ったら、いつでも言ってくれ」と頼みました。

「山西もうやめろ」と言ってくれる人がいるかいないかということが、とても大事なのです。そこでその人の度量の大きさが決まりますし、言ってくれる人がいなかったら、すぐに失脚します。すぐに失脚するような人は、「苦言を聞きたくない」と思っていますよ。
そういう人こそ、経営者に向いていないのです。それに尽きます。だから私は人の言うことを聞いてきました。

<井上>
その話はご講演の中で出てきた、違う血を入れるということとつながっていますか。

<山西会長>
まさにつながっていますよ。私は23人執行役がいる中で、価値観が異なる人物も入れています。価値観が違うから、分かることもあります。だから、そういう人材も執行役に就任しています。それが正しい組織なのです。これはずっと前から思っていたことです。

トップが聞く耳を持つことの大切さとは?

<井上>
それができるのは、価値観が違う人物でも、聞く耳をもっているからですよね。

<山西会長>
必ずしも私が全て正しいわけではないのです。いろんな声を聞くことが大事なのですよ。

<井上>
耳に痛いことを受け入れるのには、相当な胆力が必要ですよね。言わない方が上手くいくと思っている人もいるでしょうね。

<山西会長>
それが間違っています。たとえ、将来に対して誤ったことを言っていたとしても、誤りが分かったら認めればいいだけです。だから、いろんな意見をとにかく、取りそろえるようにしないといけません。その結果、企業は健全になっていくのです。

イエスマンを集める経営者が失敗するわけとは?

<井上>
今日の受講者の方々も、どうやって自分と違う人たちを巻き込みながら、会社を作っていくのかに目を向けた方がいいということでしょうか。

<山西会長>
そうだと思いますよ。でも、そういうふうにしない人が多いですけどね。自分のイエスマンばかりを集めている人が結構います。イエスマンに限って、肝心な時に何も言いません。
そういうリーダーがいたら、私はいつも「お前はかわいそうだ」と言っています。何人部下がいるのか知りませんが、「部下の誰もが何も言ってくれないのか」ときつく言います。

そんなイエスマンを本当の部下だと思ったら、大間違いです。部下からしても、「こんなこと言ったら、この人は怒るだろう」と思っているのでしょう。リーダーの態度がそうさせていることがあるのです。

<井上>
そんな組織がうまくいくことはありませんね。

<山西会長>
ありえません。私は昔からそういうことを平気で言っていました。それが私の良くない部分でもありますが。

<井上>
山西会長の上司の方は聞く耳を持っていたから、それが言えたのではないですか。

<山西会長>
持っていました。そこが重要なのです。

<井上>
そこが三菱電機さんの強い文化の一因かもしれませんね。

<山西会長>
そういう人しか社長にしてはいけないのです。私はそう思っています。多分、うちの会社にはそういった伝統が受け継がれているのでしょう。

<井上>
素晴らしい文化ですね。

新任執行役が肝に銘じるべき2つのこととは?

<井上>
最後に、意欲を持っている今日の受講者の方々に応援メッセージをお願いします。
今の話を聞いて、部下の人に目配りしながら、不条理に対して迷いがあるケースも多いように感じました。
特に今の取締役の方は、取締役兼本部長などという執行役と取締役を兼ねることが多いようです。不条理がありつつも、取締役として責任を全うしてほしいという点をお話していただけたらと思います。

<山西会長>
私が社長時代に新任の執行役に対し、これだけはちゃんと聞くように言ってきたことが2つあります。

1つは、皆さんが過去を引き継いであるポジションの執行役になったということです。
過去に起こったことは、すべてあなたの責任になります。
もし、過去のことに対し、責任を取りたくないのなら、執行役を引き受けず断ってほしいと思っています。

もう1つは皆さんが勘違いしがちなことです。
三菱電機の常務執行役になった人は、常務執行役兼●●事業本部長なのです。皆さんは事業本部長が本務ではありません。本務は三菱電機の常務執行役なのです。事業本部長はあくまで兼務です。優先すべきなのは当然、三菱電機の常務執行役になります。
だから、三菱電機全体の利益にならない事業本部の利益代表みたいな発言をしてもらっては困ります。

そういうことをずっと言い続けてきました。それは今日受講した皆さんにも当てはまることです。この2点を忘れずに、皆さん頑張ってください。

<井上>
組織全体の最適化を優先するということですね。今日はありがとうございました。