《特別コラム》経営財務研究所・代表/丸紅株式会社・理事 津森信也 氏

『CDP:経営者・幹部の財務会計必須セミナー』の講師である津森信也氏(経営財務研究所・代表、丸紅株式会社・理事)が2016年9月12日に以下の講演をされました 。

本コラムでは、この講演の骨子を伺うと共に、企業価値向上を目指すすべてのビジネスマンに財務・会計知識が必須な理由等を伺いました。

◆企業価値向上経営の意義と実践について

企業価値向上経営セミナー『企業価値向上経営の実践に向けて』 ‐2016年度経営層向け研修プログラム‐
日時  :2016年9月12日
開催場所:東京・大手町 日経ホール
主催  :東京証券取引所
後援  :日本証券業協会、日本経済新聞社等

プログラム

  1. 「投資される経営、売買される経営」
    みさき投資株式会社 社長 中神 康議 氏
  2. 「ROE経営‐真実と誤解」
    津森信也
  3. 「企業価値向上経営における企業情報開示のあり方と今後の課題」
    みずほ証券株式会社 市場戦略部上席研究員
    京都大学経営管理大学院 特別教授 杉浦秀徳氏

※上記の東証セミナーの詳細については 、末尾URLをご参照ください。
※なお、津森氏は、東証のe-ラーニング『企業価値向上経営の意義と実践に向けて』の監修もしておられます。

ビジネスマンに財務会計知識はどの程度必要なのでしょうか?

企業の管理職になり、さらに、経営幹部になってくると、財務諸表を理解する、つまり、自社の現実の財務状況を理解することが絶対的に必要となります。
自社の現状を正しく把握するためのみならず、経営戦略の立案等の経営判断を行う上でも、財務・会計の基本を理解することが前提条件であると言えるでしょう。

特に、国際会計基準が次第に導入されてきており損益計算書の理解だけではなく、貸借対照表の理解が必須になっています。損益だけの単式簿記ではなく、資産の価値や負債と自己資本の意義を考える複式簿記で財務状況を把握する能力です。

“簿記は非常にシンプル”なことが、なぜ分からなかった?

企業の役員・部長クラス(財務・会計部門ではない方が殆ど)を対象に、日本能率協会で18年間「財務・会計必須セミナー」の講師を務めてきた経験から言うと、90%以上の方が会計の基本のみならず借方・貸方等の簿記の基本を理解できていません。

そこで、このセミナーでは借方・貸方の理解から始めて簿記の基本を講義します。

簿記検定に必要な知識ではなく日々のビジネスに必須の知識です。
これが分かっていれば、今後の会社生活で困ることはないという基本知識です。

実に多くの社内研修や簿記会計のセミナーでは、これらの基本知識があるものとの前提で公認会計士や大学教授等から専門知識の講義を受けますので、何も分からないままに終わることが多いはずですが、このセミナーでは基本の基本を理解させますので、実に多くの方が「分かった。そんなにシンプルなことがこれまでなぜ分からなかったのだ!」と感想を述べています。

「ファイナンスの理解のためには数式も簿記も要らない」というような雑誌記事や書籍を見かけることがありますが、数式や簿記を理解しないままで得た知識は砂上の楼閣です。実戦の役に立ちません。
応用力ゼロの知識になります。abcが分からなくては、英語は分からないことと同じです。

日本能率協会でのセミナーの内容は?

日本能率協会のセミナーでは、ビジネスマンなら押さえておくべき知識を中心に、財務実務の基本とその応用を講義します。
その中心部分は次に述べる講演の骨子と同じですが、それを理解するための前提知識としての簿記、会計、そして、ファイナンスの基本理論(実務的に説明します)から始めます。
その他、実務知識としては、例えば、東証1部上場株式で1万円を超えている株式は少ないのに、225社の株価の平均値である日経平均はなぜ2万円もしているのか、等のトリビアも含まれます。

36年間、総合商社であらゆる財務実務を担当し、また、財務部門の責任者を務めた経験と大学教授として8年間の学者生活の経験に基づき、企業経営に視点を置きながら、ビジネスマンとしての生活に必須の「使える財務・会計知識」を分かり易く講義します。

「ROE経営-真実と誤解」の要旨 はじめに:

上記のセミナーでの講演の要旨は次の通りです。
この講演では受講者に簿記会計の基本知識があることを前提としていますが、日本能率協会の小生のセミナーでは、簿記会計から始めて、さら易しく、詳しく、具体的・実務的に説明しますので、ここでは要旨の中の問題提起の部分を中心にします。

会社はだれのもの?:

日本能率協会のセミナー受講者の株式会社に対する理解度ですが、18年前の開講時は「企業(株式会社)は従業員や社会のものである。企業は株主のものだという意見には全く賛成できない」という意見が殆どでした。

4,5年前から「違和感があるものの、企業は株主のものであることは否定できない」という見解が8割以上になってきています。

「企業は株主のものだ」ということの真の意味を次に述べるように正しく理解することがこれからの企業経営には必要です。

わが社は何をもって社会に貢献するのか:

具体的な話に入る前に企業理念について見ておきましょう。「わが社は何をもって社会に貢献するのか」という点です。
これが役員・社員全員で共有されていれば不祥事は起きないはずですが、企業理念が「お題目」のみとなっているケースが散見されます。

企業理念の追求の過程で生まれる利益、つまり「品性がある利益」の計上こそが企業の究極の目標であると言えます。企業理念の軽視が不祥事に繋がります。

株式会社経営の基本とは:

企業は株主のものですから株主価値を向上することが企業の究極の目的ですが、従業員、顧客、取引先、社会、株主等の企業のステークホルダー(利害関係者)の中で株主の優先順位は最劣後になります。
法的にもそうなっています。
多くの著述や報道で「株主価値向上経営」とは株主最優先経営である、と述べていますが間違えています。

株主は最劣後のステークホルダーだが、他のステークホルダーと同様に重視されるべきだ、と認識することが株主価値向上に繋がります。
これが株式会社経営の基本です。

つまり、株主価値向上経営とは「株主を含めた全てのステークホルダーを満足させる経営」を指します。
企業価値向上経営と同義です。株主よりも優先順位が高いすべてのステークホルダーを満足させて、かつ、最劣後の株主も満足させる経営が今求められています。
従業員や社会等の一部のステークホルダーのみを重視する経営は存続しえないでしょう。

企業が生み出す価値は、まず株主以外のステークホルダーに配分され、残余(利益)があれば、それが株主に帰属します。
赤字になると、自己資本の減額という形で、株主が負担します。
この点は重要な点です。
最初に損失を負担する株主がいるから企業は融資や企業間信用を得ることができるのです。

企業の使命と3つの命題:

さて、企業の目標は自社の存続と持続的発展であることに異議はないでしょう。
そのための絶対条件を財務的観点から見れば、必要な資金調達のための信用力です。それは財務の健全性への評価で決まります。
財務の健全性を示す基本的な要素は自己資本比率ですが、必要な自己資本額を維持するためには、自己資本を提供する株主に対し、納得できるだけのリターンを与える必要があります。
つまり、収益性です。

財務の健全性と収益性を備えた上で企業価値の向上(株主価値の向上)を目指すことが企業の基本的な使命でしょう。そうすると3つの命題が出てきます。

①自社の財務の健全性を示すに足る自己資本額とはいくらか。また、自己資本額の多寡のみで判断できるのか。
②株主が期待する収益率(これを自己資本コストと呼んでいます)はいくらか。
③企業価値とは具体的に何を言うのか、また、その向上のための財務面の方策はなにか。
という3点です。

財務の健全性とは:

日本能率協会のセミナーでは、以上の3つの命題を具体的に検討します。
財務の健全性は自己資本比率のみで考えるのではなく、保有資産のリスクを考える必要があること、つまり、保有資産の健全性も非常に重要であることを述べます。
この2点の検討から、自社に必要な自己資本額の算定方法を考えます。

収益性とは:

収益性とは何でしょうか。1円でも黒字決算をすれば収益性があると株主は判断してくれるのでしょうか。
そうではないでしょう。

では、どれだけの利益を計上すれば良いのでしょうか。
株主はどの程度の利益計上を期待しているのでしょうか。

会計上は、つまり、損益計算書上は自己資本のコストはゼロで計算されますが、企業経営上もそれで良いのでしょうか。
自己資本にもコストがあると考えて経営するべきではないでしょうか。
自己資本のコストという問題を具体的に検討します。

企業価値とは:

企業価値とは静態的には帳簿上の価値ですが、動態的に考えれば市場価値(時価総額、つまり、株主価値)を指します。
上場企業では両者が一致していることはまずありません。
なぜ異なっているのでしょうか。

そもそも時価総額を決定する基本要因である株価はどのように決まるのでしょうか。
市場が評価し株価が向上するための条件は何でしょうか。
また、株主還元の多寡は株主価値に大きく影響するようになって来ていることにも留意すべきでしょう。

ROE経営の真実と誤解:

昨今、株主価値向上経営のためにROE(自己資本利益率=当期純利益/自己資本額)の目標値を設定する動きが盛んです。
単にパーセントである目標値を決めることがROE経営だと誤解されているケースがありますが、手順としては、まず分母である自己資本額の水準について経営判断を行い、次いで、分子の利益目標額を決める必要があります。

ではROE目標値はどの程度であるべきなのでしょうか。

市場から評価される必要がありますが、その点も検討課題です。
そして、何よりも重要なことは具体的なROE目標値の達成策が立案され、実行されなければいけない、ということです。
目標を単なるスローガンで終わらせないため、社内で具体策を決定し実行する必要があります。そのような体制が日本企業にできているのでしょうか。セミナーではこの点も詳しく検討します。

この「CDP:経営者・幹部の財務・会計必須セミナー」で、ここ数年の間に企業経営の考え方が急激に変化していること感じ取っていただけるものと思います。
皆さんの経営財務リテラシーが向上し、真の意味での企業価値向上経営推進のための一助になるものと思っています。

※津森講師には、経営者・幹部の財務・会計必須セミナーでご講義いただいております。
CDP:経営者・幹部の財務・会計必須セミナーの詳細はこちら
http://jma-top.com/cdp01/cdp_c/

※1 企業価値向上経営セミナー(東京証券取引所)
http://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/seminar/management/index.html

このページでは、2014年度にも津森先生が出講されていることが分かります。

※2  東京証券取引所 e-learning(津森講師監修)
http://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/seminar/e-learning/