《第24回》大東建託株式会社 代表取締役社長 熊切 直美 氏 インタビュー

大東建託株式会社 代表取締役社長 熊切 直美 氏に、経営者として自社の原点に立ち返り戦略を貫く姿勢と、組織の変革と人材育成についてお話を伺いました。ぜひご覧ください。(※敬称略)
インタビュアー:一般社団法人日本能率協会 丸尾

最初に取り組んだ経営改革とは?

<JMA>
人材育成は、永遠の経営課題といいますか、悩んでおられる会社様がとても多いと感じています。是非、熊切様にもお伺いできればと思います。

<熊切>
はい、よろしくお願いいたします。

<JMA>
ありがとうございます。本日は3つお話いただければと考えています。

1つは、御社が大きな変革や改革をされてきたご経験についてです。御社のスタイルとして飛び込み営業を継続しているとご講演の中でおっしゃっていましたが、若者の価値観や働き方の変化に対してどのように対応されているのか、経営の変革についてお伺いしたいです。

2点目は、経営者としての醍醐味や、ありたい姿をどのように描かれ、そこに近づく為にされている研鑽や、日々どのような行動を取られているかなどをお聞かせいただければと思います。

インタビューの最後には、セミナーの参加者の方や、これから経営層に向けてステップを踏んでいかれる方々に向けて、応援メッセージをいただければと思います。

<熊切>
わかりました。

<JMA>
さっそくですが1つめの質問に移りたいと思います。
熊切様が社長になられて取り組んでいる改革について教えてください。

<熊切>
まだ改革は本当に“道半ば”です。
当社は飛び込みを主体とした営業を行っており、成果給というインセンティブの比率が高い給与体系をとっておりますので、離職率が非常に高いことを問題視していました。

その離職率を改善させるということを、業績が悪化してでもやるのか、単に離職率を低くする為だけにお茶を濁してやるのかについては、本当に逡巡をした時期がありました。

我々の組織は中途入社の社員が9割を占めておりまして、大変お恥ずかしい話ではあるのですが、私が社長になる以前、それをうたい始めるまでは、土地オーナーさん向けの建築営業といわれている職種の社員を、毎年多数採用しておりましたが、多くの方が退職してしまうとんでもない状況でした。

例えば、ライオンの親が子どもを崖から突き落として、這い上がってきた人だけが残るというような、ある意味そういうモーレツ社会の時代だったら良かったのかもしれないでしょうけれども、これは通用しないなと、営業部門のトップをやっていた時からずっと思っていて、それをとにかく大改革したいと思っていました。

入社して1年で退職してしまう方を30%以下にしたいと宣言をし、それが今どうなっているかというと、3年半経って、目標値との差が半分くらいに縮まりました。

経営改革で、重要な2つのポイントとは?

<JMA>
かなり、下がりましたね。

<熊切>
そうですね、確かに下がりはしました。

この時に現場の営業マネージャーたちが、「業績が落ちてもいいのか」と聞くので、「いいよ」と答えています。

そのくらいは覚悟の上だよと。

仮に受注実績が前年比20%落ちたとしても、離職率を下げることをやるというのを宣言してから始めたわけです。

それでようやく、エリアマネージャーや幹部の部長クラスが本気になってやり始めたというのが実態です。

まだ目標の30%以下のところまでは到達できていませんし、数年前よりは、多少マシ、50%くらいになったというくらいで、今でも退職率は高止まりのままです。

まだまだ道半ばですが、会社のトップが本気度を見せたというところが、一番のポイントだったのではないかと思っています。

<JMA>
先ほどの講演の場でお答えになられていたような、シンプルに伝えるというところでいいますと、売り上げが落ちても改革を進めるというのは、わかりやすく、伝わりやすい表現ですね。

<熊切>
とにかく業績は落とさないように、でも離職率は下げるぞといっても、現場は「じゃあどちらを優先するのですか」という話になってしまうので、どちらが優先かといったら、この実態を変えることが大事だと。

業績も落とさずにやれたらもっといいよねというのは二番目に位置づけたわけです。

<JMA>
ところで、飛び込み営業をやめたわけではないのですよね。

<熊切>
はい、飛び込み営業というやり方は変えていません。

今の時代は、働き方改革、ダイバーシティやワークライフバランス、三六協定といった問題も、いろいろなところで起きています。

建築営業のオーナー様向けの営業も、毎年100人を超える新卒の社員が配属されていていますが、飛び込み営業は当然抵抗感のある仕事であり、若者が一番嫌う職種です。

ただ、飛び込み営業でやっているのは“なぜか”ということを理解すれば、それが一番効率のいい営業手法であることがわかるので、そこを理解させながら進めています。

具体的な目標の大切さとは?

<JMA>
では、その理解が上手く浸透していって、離職率の改善につながったのですね。

<熊切>
いや、まだ浸透しつつあるというところですね。

入社してから3年以内に一定水準のスキルが身につくような教育プログラムを新たに作り、それに沿って、3か月なり半年ごとに到達する目標、あるいはターゲットを決めて、OJTといいますか、実際の実践教育も含めたプログラムを再整理して、今、実行をしている最中です。

離職率を30%以下にすることは、なかなか難しいですが、私の任期中にやりたいと思っています。

<JMA>
厳しいハードルがあるわけですね、そこに。

<熊切>
それと今、人事部のメンバーにも言っているのが、新卒就職企業人気ランキングを100位以内にしようということです。

これを打ち出した時には「そんなの無理」と言われて、取締役会でも笑われました。

ただこれも徐々に現実味が見えてきました。最初に言い出したのは3年ほど前だったのですが、その時はランキングが800位ぐらいの時代です。

<JMA>
それが100位に近づきつつあると。

<熊切>
2017年度には、100位が何とかなるかなというぐらいのところまできているので、これも先ほど申し上げた、できそうにないと思うことでも、「明確に就職企業人気ランキング100位を目指そうよ」と言ったことが、頑張る原動力になっているということは現実にあるのではないかと思います。

就職企業人気ランキングが800位以下である、飛び込み営業が厳しい中途入社の人たちの離職率が高いなどということが、ある意味ブラック企業のイメージになってしまっていると思います。

いきなりホワイトにまではいかないとしても、少しは改善をしようよということを、営業職も技術職も、いろいろな職種ごとに、採用活動を含めた会社のイメージアップに取り組んだ結果、3年半で就職企業人気ランキング100位を目指せるような状況になったというのは、目標とするものをわかりやすく伝えて、頑張ろうよと言い出したからだと思います。

そういったことがひとつの行動指針になっているのではないかなと思います。

<JMA>
具体的な目標に向けて、関わる方たちがいろいろな工夫をされ、実現に近づいているのですね。

<熊切>
そうですね、やってきた結果だと思います。

経営改革をする際の教育の位置づけとは?

<JMA>
離職率を下げたいという施策の中に、教育プログラムをしっかりと作って、OJTを含めて実行されたというお話がありましたけれども、経営改革を起こす時の教育や研修プログラムの位置づけは、どのようにお考えですか。

<熊切>
どちらかというと、座学というのはその場限りになってしまう面が多いので、座学プラスOJTで実践の部分のフォローが必要と考えています。

PDCAが回り、身につくよう、繰り返しやることが大事であると思っています。

ですから、私は自分の任期の期間、語りかける時間といいますか、語り継ぐという時間を、いかに経営層が持てるかどうかが、教育成果が上がる、あるいは効果が見込めるという点で重要になってくるのではないかなと思います。

<JMA>
語るというのは、例えば目標を共有する為に、その意味を語るとか、そういったことですか?

<熊切>
どうしてこうなっているか、創業者がこのように考えていたから今のルールがあるなどです。

私たちの会社では、毎年4月に全社員を対象に経営計画発表説明会で社長をはじめ役員から経営方針を説明しています。その際、経営計画書を全社員に配付しており、その中で「変革に関しては何でも変えれば良いということではない」と書いています。

つまり、「変えなければならないもの」と、「変わらないもの」とがあって、それらをきちんと見極めてやりなさいということが書いてあり、まったくその通りだと思っています。

会社を良くする為に、あるいは業務効率を上げる為に、何でも変えれば良いわけではなく、今までやってきた中で、「変えてはいけないもの」「変わらないもの」「変えなければならないもの」があり、きちんと見極めることが大事なのです。

今のやり方がすべて悪いから、それを全部変えるというのは、おそらくありえない話だと思います。

<JMA>
全否定になってしまうのは、違うということですね。

<熊切>
はい。

ゼロベースで見直すということは本当に大事なことではあっても、今やっているやり方は、先輩たちが積み上げてきたものがあっての結果があり、それなりの成果が出ているわけで、それをさらに良くする為に、どこが問題なのかを取り違えてはいけません。

当社の場合でいうと、離職率を下げる為に飛び込み営業をやめて、ハウスメーカーのように住宅展示場でお客様が来るのを待っていたら、おそらく売り上げは半分くらいになってしまいます。

<JMA>
そうですね、差別化もできないし、競争力も落ちてしまいますね。

<熊切>
それでは大東建託の特長や強みはどこで発揮するのですかということに立ち返っていけば、現状の飛び込み営業というやり方が、もっとも営業力が発揮できる手法だというところに行きつくと思います。

そうすると、結果として建築営業職とはこのようなやり方をするのですよ、というところに戻っていけますので。

ただ単にやりなさいという話ではなくて、原点まで立ち戻って、成り立ちを理解してもらえるような努力をすることが、改めて大事だと思います。

<JMA>
本当に人の行動を変えるということは、やはり腑に落ちたものがないと、難しいものですね。

<熊切>
腹落ちしないと、変革といいますか、本当の変化にはなかなかつながらないと思います。

<JMA>
すごく説得力のあるお話ですね。

<熊切>
いえいえ。

本当にまだまだ道半ばで、何もできていないに等しいのですが。

経営者として心掛けていることとは?

<JMA>
でも本当に目標にめがけて、結果を追いかけていきたくなるようなお話でした。

ところで、経営者としての研鑽についてお伺いしてもよろしいでしょうか?

熊切様が社長になられてから、もしくは社長になられる前からも、いろいろな研鑽をされてきたと思いますが、社長という経営者の立場になられてから、あるべき姿を追いかけて、続けていることや心掛けていることを教えていただけますか。

<熊切>
お恥ずかしい話、そういうことがあまりなくて、お答えのしようがないくらいなのですが、自分が伝えたいことをできるだけシンプルな言葉で、短い言葉で表現するということを、考える努力はしています。

例えば、今年の目標やテーマをどうしようかと考えた時に、どのような表現をすればよいのかということを考える時間はたくさん使っています。

<JMA>
やはりそれは、社長になられた前後で変わったことですか?

<熊切>
どちらかというと、それは社長になる以前からですね。

経営企画室長や営業本部長をやっていた時もそのようにやっていましたが、社長になってからのほうが、やはり影響力が大きいです。

<JMA>
そうですよね。

<熊切>
そうしたことを考えることに時間を費やすことが多いです。

とはいっても、机の前で考えていて浮かんでくるものでもないので、結果としては、散歩していたり、車を運転していたり、お風呂に入っていたりした時にフッと思いつくということのほうが多いです。

ただそれも、いつも考えていないと、そこにはたどりつかないかもしれないので、そういうことがスッとできる人が羨ましいなあと思いつつ、無い頭を絞りながらやっているという感じです。

後継者を育てる為に大切にしていることとは?

<JMA>
御社の場合、取締役の方は60歳で定年とお聞きしましたが、そうしますと、次の社長を生み出す為の時間が見えていると思うのですが、後継者を育成する為に、社長として何かされていることはございますか。

<熊切>
これといって特にはないのですが、当社の場合は、事業の成り立ちからして、他社で経営者としての経験があっても、そういう方がいきなり来て社長になることは、難しいと考えています。

飛び込み営業を主体とする建築営業の社員たちの心理というのは、ある意味、断りの滅多打ちからスタートをしているので、ものすごくメンタルが弱くなって落ち込むことも多い職種ですから、その気持ちを理解できないと、当社の社長は務まりません。

仮に営業の経験がなかったとしても、営業部門のマネジメントができる人であれば、社長には一番近いと思います。

そういうことができる人を、どう見極めるのかというのが、社長人事のポイントになるのだろうなと思います。

管理型の人が社長になると、その人の力量や人格の問題もあるのでしょうが、なかなか理論的なことだけでは事が運ばないし、ドロドロとしたところもあるので、そこはやはり意識をして、営業部隊のマネジメントができる人たちの中から、社長が担えるようなことをミッションとして与えていきたいなと思っています。

<JMA>
いろいろなアンテナを立てながら、ミッションも与えつつという、繰り返しの中からということなのですね。

<熊切>
そうですね。

これから経営者になる方へのエール

<JMA>
最後に、これから経営者を目指す、もしくは役員のステップを踏んでいくという方々に向けて、是非頑張ろうと思えるようなメッセージを、一言いただけますか。

<熊切>
本当に先の読めない時代になっていると思いますし、なかなか難しいのですが、今の日本国内は、少子高齢化、晩婚化・晩産化というのは避けられない状況であり、悲観的なことが取りざたされる世の中だと思います。それらを前向きに考えることをプラス思考でどうすればできるのかということを常に考え続けること、それが、それぞれの部門や、経営者としての力量を育てるポイントになるのではないかなと、私は思います。
それを目指して、心がけて取り組むことがよいのではないかと思います。

<JMA>
どの業界の方にも励みとなるメッセージをありがとうございました。
ご講演も含め、とても活性化した時間となりました。
本日は本当にありがとうございました。

※熊切氏には、第55回経営者・幹部の経営戦略セミナーでのご講演後、本インタビューにご協力いただきました。

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