田川 博己氏

株式会社ジェイティービー 代表取締役会長 田川 博己様に、ご自身が役員になられた当時の思いや経営者として大切にしていること、大きな視点を持つことについてなど、お話を伺いました。新任取締役・執行役員の方に向けての力強い動画メッセージもいただいておりますので、ぜひご覧ください。(※敬称略)

インタビュアー:一般社団法人日本能率協会 久保田

特別メッセージ動画 
~新任取締役・執行役員の方々へ

旅行だけではないツーリズムとは?

(JMA) 本日は、大きく3つに絞ってインタビューをさせていただければと思いますので、よろしくお願いします。
1つ目は、今日のご講演の感想で、受講者の皆様の反応を含めた感想をいただきたいと思います。
2点目は、今回のご講演が新任執行役員になられた方々が対象ですので、田川様が2000年に新任取締役になられたときのことを、少し思い起こしていただきまして、新任取締役になられたときに、ご自身がどのようなことを感じられて、そのあと社長、会長になられるまで、どのように自分のブラッシュアップをされてきたかというところを、おうかがいできればと思っています。
3点目は、新任執行役員の方々に向けて、応援メッセージをいただければと思います。
ではまず、1点目ですけれど、本日、ご講演いただきまして、受講者の皆様を含めて、率直な感想は、いかがでしょうか。
(田川) 多分、ツーリズムの話って、運輸業の方を除くと、それ以外の方は聞いたのが初めてだと思います。そういう意味で、こういうツーリズムっていうのが旅行でなくて、人を動かすとか、人の交流とか、そういう仕事だっていうことを、割と関心を持って聞いていただけたのではないかなと思います。
モノづくりとか、技術的なことはあっても、いわゆるおもてなしの世界みたいなことを聞くのは、普段はなかなか聞く機会がないと思うのです。そういう意味では、反応はよかったのではないかなと思います。
(JMA) 今日のお話にもありましたが、やはり、みなさん、人を動かすっていう1番シンプルなところに触れられたので、大きな気づきが与えられたのではないかと思います。

取締役として与えられた3つのテーマとは?

(JMA) 2点目ですが、2000年にアメリカから帰られて、新任の役員になられたときに、田川さんが意識的にご自身の行動を変えられた、または考え方を変えられたところはありましたか。可能な範囲で具体的なところをお聞かせください。
(田川) 今日は、お話ししなかったのですが、2000年に私が執行役員になったときに、本社をスリム化するということがありました。大きな改革で、国内旅行部と海外旅行部と営業企画部と提携販売部というのがあったのですけど、それを営業企画部という1つの部にするというプランでした。
実は、そのためにアメリカから急遽呼び戻されたのですね。渡米してまだ2年なのに。
スリム化自体は、分社化のとき本格的にするのだけれど、第1弾が実は、2000年にあったのです。この時に担当していたのが、経営企画部の担当役員、当時財務部長だったSでした。私の前任の社長で、今は理事をしている方でした。当時の財務部長だったSから聞かされたのは、これは終わりではなく、始めだということでした。
そして、これをどういうふう進めていくか、このスリム化した本社をどういうふうにして、全社に影響力を持つ本社に仕立てるかっていうのが、私に与えられた課題でした。私が執行役員になったときには、今日、明日何をするかというよりも、未来、将来に対してどうするかを考えろというのが宿題だったのですね。
それで、6月末の株主総会で取締役になりましたから、当然、役員として、これをどう執行するかということでやってきました。常務になっていく、専務になっていくというよりも、役員としてこれをどう執行して、会社の中で位置付けるかでした。そのプロセスとして、分社化という案ができあがってきたので、始まりは2000年だったのですね。
ですから、すでにそういうテーマを与えられて取締役になったので、何をやるかというよりも、それをどう成就させるかということに、邁進していたような気がします。

執行役員への役割説明の意味とは?

(JMA) 未来に向けた大きなテーマがあって、それをやっていらっしゃったのですね。
(田川) そうです。
当時の営業企画部というと、4部を1つにして、それをみる専務もいなくなってしまったので、社長直轄になったのです。そうすると、どういうことをするかとか、何か相談するとなるとすぐ社長なのですよね。 普通だったら常務とか専務がいるじゃないですか。
それがいないので、すべてを当時の社長に直接、言いに行くという状況だったのです。社長に直接、相談しに平の取締役が行くのでね、いつも緊張して行っていましたよ。
テーマはいつも前向きというか、将来のことを語らないと、今をどうしましょうかなんて言うと怒られてしまうので、常にそういう風土が会社の中にあったのですね。何しろ営業増収のために本社は何をやるべきかという、かなり幹のテーマを与えられたので、割とあまり横道に逸れずに、真っ直ぐにそれを見てきたのではないかと思います。結構、そういうことは大事なのかなと思うのですよね。
だから思うのですけれど、執行役員になったときに、そういう大きなテーマをちゃんと与えられているかどうかっていうことは大事だと思います。何のために、そういう役割を身に付けたのかと問うことになります。
私は今でも役員になった人は全員呼んで、個別に、どうしてあなたは役員になったのかいう説明を、20-30分かけて必ずしています。はい、あなたは明日から取締役になるよと言って、はい、おしまい、とはしていないのですよ。だから、発令にすごく時間がかかってね(笑)。
普通なら、3時間ぐらいで終わるのに、2日間ぐらいかけないと終わらなくて、人事部が大変かもしれないけど。でも、それは大事なのではないかなと思うのです。当時の取締役のS氏から、私が財務・組織対応をする時に受けたこととまったく同じことをしているのですが、そういうことは今でも大事なのではないかというふうに思います。
(JMA) 今日のご講演の中で、1回時間軸をとって、過去、現在、未来で考えて振り返ってみる、というメッセージもいただきました。まさしく、役員の方々の未来に対する考え、過去を振り返って未来をどうするかを考えてほしいというところですね。
(田川) やっぱり節目が人間には必ずあるので、それを節目と思うか思わないかっていうのは、すごく個人差があると思うのです。役員になってうれしいとか、執行役員になってうれしいとか、そういうのはちょっと置いておいて、人生の節目なのかどうかっていうことですね。
会社では、仕事をして部長だったのが、たまたま同じ担当で執行役員になってしまうことはないのです。絶対、何か理由があるのです。その理由を、もし言われなかったら、聞き出す必要もあるのです。ありがとうございました、おしまい、ではだめだと思います。
それを聞き出せるかも、その人の能力だとは思いますが、やっぱり1番は、なぜ執行役員にしたのかっていう話を、上司がしなければいけないのではないかと思います。

異業種交流が大切な理由とは?

(JMA) いろいろな未来に向けてのお仕事の中で、ご自身が30代、40代でいろいろ蓄えてきた知見、経験を生かしてきた、というお話がありましたが、50歳を超えて役員になられてから、何かご自身で意識してやられてきたことがおありでしょうか。
(田川) 今は若いときにやってらっしゃる方もいるけれど、やっぱり異業種交流みたいなことかな。
そういう立ち位置になるといろいろなところに出る機会があるので、そういう意味で、人脈を自分でどう作るかですよ。それまでは、人脈は他人から与えられるものだと思います。上から、君、あいつのところに行ってこいとか言われて。
私は、もう25年ぐらいやっているのですが、若いときに一緒になって同じ同世代で、異業種交流会みたいなのをやってらっしゃるなら、やっぱりそういうのを大事にしたいですね。それも同業の中よりも異業種の人を。
だから、まさにここに集まったこういう3日間一緒だった人を、どうやっていい意味で長続きさせていくかですよ。そういう意味では、私は今も交流会みたいなのを3つも、4つも持っているのだけれど、これがずっと役員になっても武器になっています。外に出ていくことですよ、やっぱり。そうしないと、井の中の蛙になる。
われわれはセールスマンだから外にいく機会があるけれど、技術系の人とか、総務だ、経理だとかはね、なかなか外に出にくいじゃないですか。そこはもう思い切って、こういう研修に来て仲間を作っていくっていう努力が必要で、会社としても外に出してやる努力が必要だと思うのですね。
うちも財務のKを、前に1年間、JMAさんの上級者研修に参加させたことがありました。彼はもうすでに執行役員だったのだけれど、将来のそういうときのために、あえて会社を休んでもいいから、出ろと言って出したのですよ。それで、最後、取締役にして、今は財務担当をやらせています。だから、そういうプロセスが人材育成には1番必要なのかと思います。
ですから、もし自分が今度は上司として部下を見たとき、そういう立ち位置にいる社員がいれば、出したほうがいいと思います。多分、、他の団体だったり、どちらかというと異業種が集まるような組織に参加させるべきです。
(JMA) 私どもも、少しでもそういう方々のお役に立てるようにしていきたいと思います。
(田川) このあいだの会議で、グローバルビジネスとか、グローバルガバナンスとか、それからグローバルイノベーションとか、リスクを見たときに、最後にやっぱり企業の不安を取り除いてほしいと思いました。今はみんなね、どんな人も企業にいる人はね、不安だと思うのですよ、多分。
世の中の流れがあまりにも激動していて、インターネットみたいなIoTも含めてね、まだまだどうなるかわからない時代です。そういう中で、技術屋さんも、どこまで技術を進化させたらいいのかっていう不安感を持っているでしょう。 そういうのを、今回の異業種交流会のような場所が、その不安感を少しでも取り除けば、みんな自信をもって仕事をするのではないかという気がします。今、ちょっと自信が持てなくなっているのではないかと思います、日本の企業も。技術立国のはずなのだけど。
匠の世界なんかもそうでしょう。そういう意味では、どこまで国が、文化功労章とか、文化勲章とかはいいのだけど、本当に現場で頑張っている匠の人に、そういう手を差し伸べてやる仕組みを考えているでしょうか。今、ないでしょう?

信じたことをやることの大切さとは?

(田川) しかし、それらが日本の伝統芸能や工芸を守っているとすれば、本当はそういうのは申し訳ないけれど、地方にたくさんいらっしゃるではないですか。
だけど、そういうのって1つの業種ではできないので、こういうところで集まった異業種のみなさんが、共同してやっていってほしいのです。だから、業界団体っていうのは、ある意味ではすごく強いのだけれど、やっぱり異業種じゃないから、異業種交流をやったほうがいいですよ。
やっぱり経団連とか、経済同友会とか、ああいうところの友だちというのが、面白いのはそういうことなのですね。
いろいろなタイプの人がいる。
要は、これから、多分、本当にダイバーシティという多様性がある人が集まって、プロジェクトを作る必要があるのじゃあないかなと思います。
(JMA) ありがとうございます。
本当に力強いお話を、今日は、どうもありがとうございました。
それでは、最後にですけれど、今のお話にもだいぶ含まれていましたが、新任の執行役員の方々に向けて、メッセージを賜われればと思いますので、よろしくお願いします。
(田川) 私の座右の銘の1番最初に書いてある言葉がそうなのですけれど、何が正しいかではなく、自分が、信じたことをやるということが、正しいことにつながるので、自信と誇りを持って行動せよというのが、最大のメッセージかな。
多分、今は、さっき言ったように世の中が不安なので、みんな自分の仕事がどういう役に立つのかどうか、悩んでいらっしゃると思うのですね。
仕事もそうだし、社会に対してもそうだし、それから、娘や、息子や、奥さんから言われたときにどう答えるかっていうのも含めて、結構、そういう不安感が50前後のみなさんには、あるのじゃあないかなあと思います。
私たちみたいに、もう60代後半になったら、ある程度達観しているところがあるのだけれど、多分、1番、そういう意味では、火中の栗を拾っているみなさんなので、そこに正しいのかどうかよりも、自信と誇りを持ってね、仕事をしてほしいです。
もう、入社して30年以上をお経ちになっているとすれば、そう間違いはないと思います。
会社から認められて、執行役員になったという自信を持ってください。
そういうことを、ぜひよろしくお願いします。
(JMA) 力強いお言葉をどうもありがとうございました。
(田川) よろしくお願いします。

※田川氏には「新任執行役員セミナー」にご登壇いただきました。